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英語学習

村上春樹を英語で読もう

皆さんは、小説は好きでしょうか。好きな方でしたら、村上春樹の本を読んだことがある方は多いと思います。ストーリーは覚えていますか?独特の世界観が広がる内容ですので、印象には残っているはずです。

英語力を上げたい皆さんにおすすめなのが、あえて、英語翻訳版を読んでみようという試みです。

全ページを完璧に理解しようと気合いをいれていると、挫折してしまうかもしれないので、会話以外の文をとばして、会話のみをひろって読んでみるというのはどうでしょうか。

会話文だけをおさえていくだけでも、一度日本語で読んだのでしたら、物語の展開はある程度わかるはずです。そして、そのままさらっと会話部分だけを英語で読んで、自信をつけたうえで最初に戻り、細かい部分も含めて精読していくといったほうがよいのではないかと思います。

会話の表現くらいであれば、中級レベルの英語力でも理解できる内容ですが、情景描写などは、上級レベルでも、わかりにくい部分が多くあるからです。

例をあげるため、「ノルウェイの森」の英語版 (翻訳:Jay Rubin) の3つの文を引用します。

①Washed clean of summer’s dust by days of gentle rain, the mountains wore a deep, brilliant green.

②The October breeze set white fronds of head-high grasses swaying.

③One long streak of cloud hung pasted across a dome of frozen blue.

こちらは、物語の最初の方にでてくる文になりますが、このブログをご覧の皆さんは、この情景描写のイメージが英文を読んだだけで浮かぶでしょうか。

浮かんだ方は、このブログでの情報は必要のない上級者の方だと思います。浮かばなかったとしても、自信を無くすことはありません。日本語で育った私たちにとり、英語で小説の情景描写を読むのは高いハードルですからできなくてあたりまえです。

それでは、気にせずゆっくり精読していきましょう。

①Washed clean of summer’s dust by days of gentle rain, the mountains wore a deep, brilliant green.

単語 wore=wearの過去形(ここでは”色づく”といったニュアンス)

これは、いきなり難しいですね。いろいろな解釈の仕方がありますが、文頭でHaving beenが省略された分詞構文としてとらえることができます。なお、Washed cleanとsummer’s dustの間に、ofが単語をつなぐために必要となります。

また、簡単に言えば、「Summer’s dust had been washed clean by days of gentle rain, and the mountains wore a deep, brilliant green. 」という、ありきたりの文を詩的な旋律の文章で描いたと言えます。

(AI直訳)何日も降り続いた優しい雨で夏の埃が洗い流され、山々は深く鮮やかな緑色を帯びている。

②The October breeze set white fronds of head-high grasses swaying.

単語frond 葉、sway 揺れる

set=madeのような使役動詞として考えるとわかりやすいと思います。

(AI直訳)10月の風は、頭の高さまで伸びた草の白い葉を揺らしている。

③One long streak of cloud hung pasted across a dome of frozen blue.

単語streak 筋

この文の動詞は、hung(つるされる) で、pasted(貼り付けられる)は副詞的役割と考えましょう。

(AI直訳)凍りつく青のドームに、一筋の長い雲が貼りつくように垂れ下がっている。

それでは、原文の村上春樹の文章はどうなっているのでしょうか。①から③と英文では三つの文に分けられていますが、実は、原文の日本語では、一つの文になっているのです。

以下に引用しますので、皆さんの予想と比較してみてください。英文から入っていくと、日本語の原文の深みがわかると思います。

何日かつづいたやわらかな雨に夏のあいだのほこりをすっかり洗い流された山肌は深く鮮やかな青みをたたえ、十月の風はすすきの穂をあちこちで揺らせ、細長い雲が凍りつくような青い天頂にぴたりとはりついていた。

さて、この作業でおわかりかと思いますが、情景描写など、難しい表現を理解しようとすると、まず時間がかかり、読む作業が止まってしまいます。

繰り返しになりますが、このような1、2度読んでも理解できないような文章があった場合は、そこで止まらず飛ばしてしまって流し読みをすることをお勧めします。早く1冊を読んでしまうことで、会話文の速読のトレーニングにもなると思います。

私は、村上春樹についてくわしいわけではありません。長い間、読んだことがありませんでした。ただ、外国人との会話の中で、村上春樹の作品について話題になることがあり、日本人としての教養として、一冊は読んでみようかなと思ったのが2011年頃のことです。

当時は、「1Q84」が出版され、話題になっていました。かつて英語圏に多くあった書店チェーンの、今はなき、Bordersに大量に平積みになっていたのを覚えています。ただ、洋書版は、電話帳のような太さだったことから(若い人には古い例えですが)、とても読む気にはならず、読みやすい日本の単行本を購入し、日本語で読みました。

正直、物語に引き込まれていきました。そして、この「1Q84」がきっかけで、彼の作品をいくつか読むことになります。

村上春樹の作品は、人間社会の日常で起こりうるような表面的なものだけでなく、さらなる人間の深いつながりのようなものを暗示させる世界が広がります。

世の中には、そういったことに敏感な人もいれば、全く興味のない人もいると思います。彼の作品に対して、好き嫌いで二分するのは、そういった感受性の違いからというのもあるのかも知れません。

村上春樹の作品が、世界中の人に読まれているのは、物語の普遍性はもちろんのこと、英語圏での普及に貢献した翻訳者の力もあると思います。

下記に4人の主な英語翻訳者の作品を紹介します。全員が文学者、日本研究家であることは大きいですね。まさに精鋭の職人たちです。

主な村上春樹の長編小説の翻訳者

Alfred Birnbaum
アメリカ人 日本文学翻訳家

羊をめぐる冒険
ノルウェイの森

Jay Rubin
アメリカ人 元ハーバード大学教授

ノルウェイの森
ねじまき鳥クリニクル
1Q84

Philip Gabriel
アメリカ人 アリゾナ大学教授

海辺のカフカ
1Q84
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
騎士団長殺し

Ted Goossen
カナダ人 ヨーク大学教授

騎士団長殺し

英文の読解力と同時に、英語でのコミュニケーション力を向上させたい方は、まず音読で土台を作ることがおすすめです。ぜひ、当ブログの以下のページをご確認ください